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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)16号 判決 1966年9月16日

原告 安田工作株式会社

被告 大阪福島税務署長・大阪国税局長

代理人 樋口哲夫 外三名

主文

一、被告署長が昭和三九年五月三〇日なした原告の自昭和三六年一二月一日至昭和三七年一一月三〇日の法人税についての更正決定のうち、所得金額二、六八〇、三一八円を越える部分、および賦課決定のうち右所得に対応する過少申告加算税額を越える部分はそれぞれ取消す。

二、原告の被告署長に対するその余の請求、被告局長に対する請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用は三分しその二は原告の、その余は、被告らの負担とする。

事実

第一、申立

原告の求める裁判

一、被告署長が昭和三九年五月三〇日なした原告の自昭和三六年一二月一日至昭和三七年一一月三〇日の事業年度(以下本件事業年度という)の法人税について所得金額四、五九四、五五八円、法人税額一、八一八、六〇〇円とした更正決定、および過少申告加算税九〇、九〇〇円とした賦課決定は取消す。

二、被告局長が昭和三九年一一月二一日なした右更正決定、賦課決定に対する審査請求棄却の裁決を取消す。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

被告らの求める裁判

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は金物木製品の製造販売を業とし、かねてから法人税法第二五条(昭和四〇年三月三一日法律三四号の改正法人税法前をさす、以下同じ)の規定に基く青色申告の承認を受けている株式会社である。

(二)  ところで、原告の本件事業年度の決算において、利益金(所得金額五九四、九二九円)を生じたが、前五年以内の繰越欠損金があつたから法人税法第九条の五項の規定によつて所得の計算上損金に算入せられる結果課税所得はないこととなつた。それで原告は被告署長に対し昭和三八年一月三一日次の如き確定申告(青色)をなした。

<1> 所得金額           五九四、九二九円

<2> 前五年以内の繰越欠損金額 三、五三二、二二八円

<3> 繰越欠損金額の当期控除額   五九四、九二九円

<4> 翌期繰越欠損額      二、九三九、二九九円

<5> 課税標準(所得金額)           〇円

被告署長は昭和三九年五月三〇日本件事業年度の原告の法人税について次の如き更正決定、および賦課決定をなした。

<1> 所得金額         四、五九四、五五八円

<2> 法人税額         一、八一八、六〇〇円

<3> 過少申告加算税         九〇、九〇〇円

原告はこれに不服であつたので同年六月一八日被告局長に対し審査請求をなしたところ、被告局長は同年一一月二一日右審査請求を棄却する裁決をなし同月二四日その旨原告に通知した。

(三)  しかし、

(1) 右更正決定は、被告署長において、自昭和三三年一二月一日至昭和三四年一一月三〇日の原告の事業年度(以下昭和三四年度という)における翌期に繰越される欠損金額を誤算したこと、又昭和三五年四月末付の繰越欠損金額修正通知書が原告に送達されていないのにその頃原告に送達されたものとして処理したこと、などから本件事業年度の所得金額を過大に算出した違法がある。

(2) 右審査請求棄却の裁決には、更正決定における違法(昭和三四年度における翌期繰越欠損金の誤算による過大な所得算出)をそのまま認容した違法がある。又原告は右の繰越欠損金額の修正通知の効力の有無を審査請求の内容としたのにこれを審査の対象としなかつた違法がある。

よつて更正決定審査請求棄却の裁決は取消さるべきである。

二、被告らの答弁および主張

(一)  原告の請求原因(一)、(二)の事実は認める。(三)の各処分の違法であるとの点は争う。

(二)  被告らの主張

(1) 本件更正決定の理由

原告の本件事業年度の法人税についての確定申告(青色)によると、課税標準たる所得金額、法人税額ともに零としているが、その理由とするところは、本来の所得金額は五九四、九二九円、法人税法第九条第五項の規定によつて損金に算入できる繰越欠損金額は三、五三二、二二八円であるから、これを控除すると課税標準たる所得金額、法人税額はともに零となるというのである。しかし被告署長において調査したところによると、原告の本件事業年度における課税標準の計算は別表(三)の(い)欄記載の通りである。しかして、本件事業年度期首に繰越された前五年以内の欠損金額は原告のいう三、五三二、二二八円ではなく、一、六一七、九八八円である。その差額は一、九一四、二四〇円である。この差額の生じたのは昭和三四年度においてである。いまこの繰越欠損金額の発生、消滅、翌期への繰越金額等の明細を原告の主張額、被告らの主張額とに区分して示すと別表(一)記載の通りである。この表の如く、昭和三四年度における繰越欠損金の額について差額の生じた原因は、昭和三四年度に欠損金に算入される控除済(消滅)となつた繰越欠損金額すなわち、当期控除額がいくらであつたかということについての認定の差異からである。それは、昭和三四年度における原告の本来の所得金額(法人税法第九条第五項の規定適用前における)がいくらであつたかに帰する、原告は八九二、九三三円であるというが、被告らのいう二、八〇七、一七三円が正しい。そこでこれを明らかにするため昭和三四年度の原告の所得額の計算を原告の主張額、被告らの主張額とに区分対比して、計算の根拠を示すと別表(二)記載の通りである。以上のことから明らかな通り被告署長のなした本件更正決定には何等の違法の点は存しない。

(2) しかして、被告署長は、昭和三四年度の原告の繰越欠損金額は誤りであるとして、昭和三五年四月三〇日付で繰越欠損金額を一、〇五八、二二一円と修正する通知をなし同通知書は、その頃原告に送達せられた。しかし当時行われていた繰越欠損金額の修正通知は法人税法第二九条第一、二項にいわゆる更正ではなく、たんに次年度に繰越される欠損金額が法人の自ら認識するところと、政府のそれとの異なるところを通知し、翌年度の所得計算に際し特に損金算入を認められる繰越欠損金額を明白にするため便宜上行政的な措置として事実上送付されていたものに過ぎない。これによつて繰越欠損金額を確定するという法的効果は全くなかつた。従つて、本件更正決定はこの修正通知書により修正されたという繰越欠損金額に直接その基礎を置いたものでなく、前記の如く、昭和三四年の原告の本来の所得金額がいくらであつたかに基礎を置いて(繰越欠損金額は確定申告書の記載にとらわれることなく、その事実に従つて翌期繰越欠損金額を算出して)なされたものである。だから、原告が修正通知書の効力のことを問題とするにしてもこの修正通知書のことは重要でなく、本件各処分の適法違法には直接関係のないところである。

三、被告らの右主張に対する原告の認否および主張

(一)  被告らの右主張に対する原告の認否は、別表(一)の(ろ)、(に)欄、別表(二)の(ろ)、(に)欄および別表(三)の(ろ)欄記載の通りである。

(二)  原告は、昭和三四年度に大阪都市計画復興土地区画整理事業施行にともない、その所有にかかる大阪市福島区鷺洲通一丁目三六番地上工場等建物八棟について受領した大阪市からの補償金三、八二九、〇〇〇円は資産収用取毀等の対価としての物件補償であつて、被告ら主張の如き移転料でなく、当然租税特別措置法第六五条の二の適用を受けてその二分の一相当額一、九一四、五〇〇円が損金に算入せらるべきものである。

(三)  原告は被告署長から別表(二)の(6)項の右補償金の二分の一の一、九一四、五〇〇円の損金算入についても、昭和三四年度の同表の<4>項の原告の計算誤謬額一〇〇円、同表の<7>項の原告の減算もれ額三六〇円についても、適法な期間内に否認訂正(若しくは修正、更正)された事実はない。原告はこの昭和三四年度の翌期繰越欠損金額を別表(一)の(い)欄記載の如く次年度以降に順次繰越しその旨青色申告してきたが、本件事業年度までの間課税標準等又は税額等を更正されたことがなかつたのである。(従つて繰越欠損金額は減額に更正されていない。)

被告らは、被告署長において昭和三五年四月末付で昭和三四年度の繰越欠損額を一、〇五八、二二一円と修正しその旨原告に通知した、と主張するが修正したならばそれは次期事業年度における課税標準、税額などにおおいに影響するから当然原告に通知すべきであるのに、原告は左様な通知または処分(修正、あるいは更正の)の通知を受けたこともないので、その修正の効力は生じていない。

第三、立証<省略>

理由

一、原告主張(請求原因)の(一)、(二)の事実は当事者間に争がない。

二、そこで、先づ本件更正決定および賦課決定が違法か否かについて判断する。

別表(一)の(い)欄、(は)欄の当期欠損金額、昭和三三年度の翌期繰越欠損金額、昭和三三年度昭和三五年度昭和三六年度の各当期控除額(〇円)、別表(二)の(い)欄、(は)欄の<1>項乃至<5>項および<7>項の各金額および<6>項について、原告が昭和三四年度に大阪市から大阪市都市計画復興土地区画整理事業の施行にともない建物についての補償金(移転料か収用補償金かは別として)三、八二九、〇〇〇円を受領したこと、別表(三)の(い)欄<1>項乃至<6>項は、いずれも当事者に争のないところである。

そうすると、本件事業年度の所得の計算において別表(三)の(い)欄の原告の申告所得額(五九四、九二九円)に同欄<2>項乃至<4>項の金額を加算すべきことは当事者に争いがないから、この金額六、三二六、七七八円を加算するとその合計額は六、九二一、七〇七円となる。さらに、所得から同欄<6>項の金額(七〇九、一六一円)を減算すべきことも当事者間に争いがないから、これを控除すると、その額は、六、二一二、五四六円となる。(別表(三)の(は)欄裁判所認定<1>項乃至<6>項)

そこで本件事業年度における原、被告らの所得計算の差異はその期首における繰越欠損金額の控除未済額が原告主張の三、五三二、二二八円か、被告ら主張の一、六一七、九八八円か、その差額一、九一四、二四〇円は何時何処から生じたか、それはつまり、昭和三四年度期首における前年度からの繰越欠損金額三、八六五、三九四円、昭和三五年度の当期欠損金額七七、二五九円、昭和三六年度の当期欠損金額四八二、五〇八円、昭和三五年度昭和三六年度の各当期控除額〇円であることは当事者間に争のないところであるから(別表(一)の<1>項<2>項<3>項)結局昭和三四年度における別表(二)の(は)欄の<4>項の原告の計算誤謬額の差一〇〇円の加算ができるか、同欄<7>項の原告の減算もれ、三六〇円の減算ができるか(この<4>項<7>項は原告の認めるところである)、同表(い)欄の一、九一四、五〇〇円が損金に算入できるか、(昭和三四年度の翌期繰越欠損金額は原告主張の二、九七二、四六一円か被告ら主張の一、〇五八、二二一円か)ということに帰着することが明らかである。

ところで、被告らは昭和三五年四月末付で被告署長が原告の昭和三四年度の翌期繰越欠損金額を原告主張の二、九七二、四六一円につき一、〇五八、二二一円に減額修正し、その頃その旨の通知を原告に対してなしたといい、原告は左様な通知を受けたことなく従つて修正の効力は生じていない旨主張しているのであるが、いまかかる修正通知書が原告に送達されたか否かは別として、当時行われた税務署長の修正通知行為について、被告らは、修正通知は翌年度の所得計算に際し特に損金算入を認められる繰越欠損金額を明白にするため便宜上行政的な措置として事実上送付されていたものに過ぎない、これによつて繰越欠損金額を確定するという法的効果は全くなかつた」と主張するところである。事実当時の法人税法(国税通則法の施行せられた昭和三七年四月一日以前のものをさす)において、かかる修正通知をなし得ることについての直接の法律上の根拠は見当らない。従つてこれについて、法的効果を生ずるなどということは考え得られないところであつて、それは被告らの右主張の通りであつたと解せられる。もちろん本件更正決定はこの修正通知により修正された欠損金額を直接の基礎にしてなされたものでなく、昭和三四年度の本来の所得金額がいくらあつたかという事実に従い翌期繰越欠損金額を算出してなされたことは成立に争のない甲第二号証(更正通知書)を被告らの主張自体とによつて窺われるところであるから本件では、この修正通知書の効力の点はその送達の有無について判断するまでもなく論ずる要のないところである。

ところで弁論の全趣旨によると、原告は昭和三四年度の翌期繰越欠損金額(二、九七二、四六一円)に基いて昭和三五、三六年度と順次欠損金を翌期に繰越(別表(一)の(い)欄の通り)して確定申告(青色)をなし、続いて本件事業年度に繰越された欠損金額(三、五三二、二二八円)に基いて本件事業年度の確定申告(青色)をなしたところ、右各年度の確定申告(青色)について更正(修正)の処分を受けなかつたが、昭和三九年五月三〇日に至つてはじめて、本件事業年度の法人税について本件の更正決定を受けるに至つたことが明らかである。

しかして、本件更正決定は、その更正の理由によると、本件事業年度における所得自体(別表(三)の<1>項乃至<6>項)を計算の基礎とするばかりでなく、この年度以外の所得である昭和三四年度の所得について、その事実に従つて計算することによつて(別表(二)の(は)欄の<4>項<7>項<6>項)、原告申告の本来の所得金額八九二、九三三円を二、八〇七、一七三円と増額修正の計算をなし、従つてそれだけ繰越欠損金額を申告額二、九七二、四六一円から一、〇五八、二二一円に減少(その差額一、九一四、二四〇円)させ、これを順次昭和三五、三六、三七年度と繰越したもの(別表(一)の(は)欄の<2>項乃至<4>項の通り)として、本件事業年度の期首繰越欠損金一、六一七、九八八円と算出し、これを本件事業年度における所得計算の一つの基礎(当期控除額……損金算入額)として、なされたことが明らかである。このことは、昭和三九年五月三〇日付の本件更正決定によつて、その実は、昭和三四年度について何らの修正更正などの処分がなされていないのに、同年度の所得を事実上計算することによつて、本来の所得の増額計算をし、ひいて同年度の繰越欠損金額の当期控除額を増大し、その結果繰越して損金に算入され得る翌期繰越欠損金額を減少させるという更正処分をしたと同一の効果を挙げたものを持ち来たつて、そのことによつて減少させた繰越欠損金を本件事業年度の所得の計算上損金に算入することによつて、本件事業年度の課税標準および法人税額をより高く更正したものといいうる。

しかし、このことは、法人税法第九条五項に「青色申告を提起した法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた損金は、第一項の所得の計算上、これを損金に算入する」と規定しているから、本件事業年度開始の日前五年以内に開始した昭和三三、乃至三六年度において生じた損金(繰越欠損金多額)のため課税標準(積極所得にならなかつた)が生じなかつたので更正処分(各年度について)できないものとして、各年度の所得をその事実に従つて計算しその本来の所得あるときはその額をその当期における繰越欠損金額の控除額として控除し、また欠損金を生じたときは当期欠損金額として加算し、順次翌期へ繰越して本件事業年度における期首に繰越される欠損金額を算定しこれを本件事業年度における所得の計算上損金に算入し得るものと解したによるものと考えられる。

ところで、法人の所得は事業年度毎に計算把握するものとされているから、その申告もまた、それの更正処分も当該事業年度の所得計算を対象とするものであつて、当該事業年度以外の年度に対しては努力を及ぼし得ないし、特別の例外を除いて当該事業年度以外の年度の所得の計算を対象とし、またはその計算を修正して当該事業年度についての更正処分の基となし得ないのは当然である。当該事業年度以外の年度においてその所得の計算に誤謬あるときはその年度について更正処分し、これに関連して必要が生ずれば、それに関連ある年度について更正処分をすべきが原則である。しかし昭和三四年度の確定申告(青色)は申告と同時に還付(この場合は法人税法第二九条二項により欠損金額の更正をなし得るが)の請求をするのでなく、期首繰越欠損金額三、八六五、三九四円、本来の所得八九二、九三三円、当期控除額八九二、九三三円、翌期繰越欠損金額二、九七二、四六一円課税標準法人税額ともに零円とするものであつて、このような納税申告をなした場合この欠損金額(繰越される)を更正し得るであろうか。これを更正し得るとする直接の規定は見当らない。(国税通則法および同法の施行に伴う関係法令の整備等に関する法律第二条……法人税法第二九条第三〇条第三一条の二削除……が施行せられた昭和三七年四月一日以前においては)、法人税法第二九条一項には課税標準又は法人税額を更正すると規定し、同法第八条第九条にいうところの課税標準、各事業年度の所得の意義内容から考察すると、同法第二九条一項の課税標準(積極所得と解せられるから)のなかに欠損金額は含まれないとみられるから、このような場合の欠損金額の更正処分をなし得ることについては消極(欠損金額の修正によつて課税標準たる所得が算出されるときは決定をなし得るであろう)に解せざるを得ないところである。昭和三七年四月一日施行の国税通則法第二四条は、当該申告書に係る課税標準等又は法人税額等を更正すると規定し同法第二条の用語の意義六号において納税申告書に掲げる事項を示しそのハ、に欠損金額(所得の計算上繰越して控除しうる純損失等の金額)を含めている、また同法第七〇条二項三号には「純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正」をすることができる旨の規定がある。従つて欠損金額は同法第二四条の課税標準等のなかに含まれ更正し得るものとなつたことは明らかである。もちろん、同法第七〇条二項三号には「当該課税期間内に生じたもの」と規定しているし、又同法第二条六号の八、の規定も、その文言からみれば、当該課税期間内に生じた欠損金額の更正と解されるが、その法の趣旨とするところは、翌期に繰越される欠損金額は翌事業年度以後の事業年度の所得の計算上繰越して損金算入が認められるところからして、翌期に繰越される欠損金額が主眼となるものであつて、その翌期繰越欠損金額を更正することによつてこれを納税法人に了知せしめ、翌事業年度分以後の所得の算出の適正を期せんとするにあるから、当該課税期間中の事実に従つて所得を計算してはじめて当該期間内に生じた欠損金額を更正し得るわけであるし、だからして、当該期間内に本来の所得があれば、その所得を修正し、そのことによつて、当期控除額(繰越されて来た欠損金額から控除される)を修正しその結果翌期に繰越される欠損金額をも更正し得るものと解する。国税通則法施行前はかかる法的効果ある更正処分をなし得なかつたので税務署長において右と同一の方法によつて算出した繰越欠損金額の修正通知(例へば本件の昭和三四年度に対する昭和三五年四月末付繰越欠損金額の修正通知の如き)がなされていたが、同法施行後は右修正通知に代つて法的効果ある更正処分がなされているところである。

国税通則法の施行に伴う関係法令の整備等に関する法律第二条により法人税法中の更正に関する第二九条第三〇条第三一条の二の規定は昭和三七年四月一日以後削除せられ、同日から国税通則法が施行せられたので、同法中の更正に関する規定(例へば第二四条乃至第三〇条第七〇条第七一条)が同日以後に納税申告書提出期限の来る事業年度分の更正について適用されるのはもちろんであるが、また、昭和三七年四月一日以前に申告書提出期限の来ていた事業年度分のものについてゞあつても、この日以後に更正または決定の処分をなし得る期間の及んでいるものについては、現に処分をなし得る期間の存するときの法である国税通則法が適用されるのは当然である。だから、このことは納税申告書中の純損失等の金額の更正についても同様に解すべきである。(更正の期間制限の規定である国税通則法第七〇条二項三号によると純損失等の金額を減少させる更正のできるのは五年間とされているが、法人税法施行規則附則(昭和三七年四月二日政令第一三六号)第四条は、国税通則法第七〇条二項三号に関して、つまり更正の期間制限に関して、純損失等の金額を減少させる更正(五年間できる)は昭和三七年四月一日以後に法定申告期限の到来するものについて適用しそれ以前に法定申告期限の到来したものについては従前の例によるとしたものである。このような経過規定が、欠損金額(純損失等の金額)についても更正し得るものとした国税通則法第二四条に関してなされているものなれば、法定申告期限が昭和三七年四月一日以前に到来したものに付いては第二四条の更正が適用されなく、従前の例によるものであるから法人税法に従うことになり欠損金額については更正できないという解釈にならざるを得ないが、右施行規則附則第四条は更正の期間制限に関する国税通則法第七〇条二項についてゞあつて、五年間更正できるものを昭和三七年四月一日以後に法定申告期限の到来するものに限るとし、法定申告期限がその以前に到来したものについては従前の例によるものとしたのであるからこの従前の例は期間のみが従前の例であつて(これによつて更正できることを規定した国税通則法第二四条の適用を排除することはできないから)、それは従前の法人税法上の通常の場合の三年間、この三年間更正できるものと解するのが相当である)

そうだとすると、昭和三四年度の原告の申告に対してその事業年度の申告期限(昭和三四年一一月三〇日から二月後)から三年間において前記昭和三五年四月末付修正通知と同様の方法による内容の更正処分をなし得た筈であるし、またなすべきであつたのである。従つて昭和三四年度について別表(二)の(は)欄の被告らの主張の計算関係が正しいものであつたとしても、昭和三四年度について更正処分がなされていない以上昭和三七年度に対する昭和三九年五月三〇日付の更正処分の理由の一つとして挙げている期首繰越欠損金額すなわち昭和三四年度の所得の計算を基として順次算出された期首繰越欠損金額一、六一七、九八八円を昭和三七年度の所得の計算の一つの根拠とすることはできない筈である。だから原告は被告らの主張する別表(二)の(は)欄の<4>項の計算誤謬一〇〇円、<7>項の減算もれ三六〇円は認めるところであるが、又同欄の補償金三、八二九、〇〇〇円が移転料か収用補償金かについて判断するまでもなく、右<4>項<7>項<6>項をもつて、昭和三七年度の期首繰越欠損金額の算出基礎とすることはできないものと解する。したがつてこれを基礎として順次算出した昭和三七年度の期首繰越欠損金額一、六一七、九八八円を理由とする被告らの主張は理由がない。

そうすると、結局昭和三七年度の期首繰越欠損金額は別表(一)の(い)欄の原告主張額三、五三二、二二八円といわざるを得ない。従つて昭和三七年度の所得金額は、別表(三)の(に)欄の裁判所認定の計算関係となり課税標準所得は二、六八〇、三一八円となる。本件更正決定は右所得金額の範囲内では適法であるが右所得金額を越える部分は違法だといわざるを得ない。

しからば、右所得金額に相応する算出過少申告加算税もまた適法であるが、これを越える部分についての過少申告加算税賦課決定も違法といわざるを得ない。

三、審査請求棄却の裁決の点について判断する。

(1)  まず、原告は被告局長が審査裁決において被告署長のなした違法な更正決定を認容した違法がある旨主張するようであるが、行政事件訴訟法第一〇条によると、原処分の取消しの訴えと、その処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては原処分の違法を理由として取消しを求めることはできない、となつているから、被告局長が審査裁決において違法な原処分(更正決定)を認容したことを理由とする原告の裁決の取消しの訴えは主張自体理由のないところである。

(2)  原告は、被告署長が昭和三五年四月末付でなしたという昭和三四年度の翌期繰越欠損金額の修正通知の効力発生の有無について審査請求の理由としたのに、被告局長のなした本件審査請求棄却の裁決はこの点について何らの審査もしていないから違法であると主張する。

ところで、成立に争のない甲第三号証(法人税の審査請求書)によると、その審査請求の理由として、「本件事業年度の決算申告に係る調査を昭和三九年四月一五日頃から受けた結果事実誤認による申告が見出されて所得の算出をされた税務署との間に繰越欠損金額に大きな差異が発見された、昭和三四年乃至昭和三八年度まで繰越欠損金を継続して申告していたにかかわらず、福島税務署においては昭和三五年四月末に更正決定(修正通知)をしているとの話でありますが、かかる通知を全然受取つておらず、かつ又以後前述の四期にわたつて、原告の算出による繰越欠損金額により申告して居り、原告の算出に就いて大きな誤りはないものと思考して居ります。従つて福島税務署の昭和三九年五月三〇日付の更正決定に就いて承服致し兼ねますので、審査方請求する次第である」と記載されている。しかし、いまこれを素直にみると、修正通知を受取つていないことに触れてはいるが、審査請求理由の主眼点は、原告が昭和三四年度以来昭和三八年度まで継続して算出申告して来た繰越欠損金額については大きな誤りはないと考えているから被告署長のなした本件更正決定には不服があるということであると看取される。しかして成立に争のない甲第二号証(本件更正通知書)によると、その更正理由の中に別表(三)の(い)欄<2>項乃至<7>項を掲記して更正決定の具体的根拠を明確にしているが昭和三五年四月末付でなされたという修正通知を更正決定の根拠の一つにする如き趣旨の記載は何もない(たゞ本件事業年度の期首繰越欠損金額一、六一七、九八八円と記載されている)ところである。そして、成立に争のない、甲第四号証の二(裁決書)によると、裁決の理由として、「請求人(原告)申立事業年度(本件事業年度)の前五年以内の繰越欠損金額の差異一、九一四、二四〇円(原告の繰越欠損金額二、九七二、四六一円と、被告らの繰越欠損金額一、〇五八、二二一円との差額)は自昭和三三年一二月一日至昭和三四年一一月三〇日の事業年度に生じたものであり、そのおもなるものは、大阪市補償金損金算入一、九一四、五〇〇円である。この補償金は移転料であるので租税特別法措置法第六五条の二の特例は適用されない。したがつて、請求事業年度における前五年以内の繰越欠損金の計算については原処分の処理を正当と認める。また過少申告加算税の賦課決定処分も上記のとおりであるから正当であり、計算にも誤りがない。」と記載されている。これをみると、本件事業年度期首繰越欠損金額の相違の点、つまり、原告が修正通知書で修正されたものに基づくと誤解していた期首繰越欠損金一、六一七、九八八円について、それが昭和三四年度に生じたこと、しかもその所得計算関係の差異は主とし何に基因するか(原告が損金に算入している一、九一四、五〇〇円が移転料で損金に算入し得ないこと)を具体的根拠を明らかにしておつて、これと、本件更正処分決定の理由中の記載とによれば、原告としては自己の所得計算に関することであるから、本件更正決定の根拠たる所得算定、従つてまた繰越欠損金の差異の原因が理解し得られる程度のものであつて、本件更正決定を正当として維持した理由を充分に明らかにしたものと認められる。これは原告の不服とする事由の主眼点については、附記された理由において、その判断が明確に示されたものといい得る。しかも原告が本件で主張する修正通知書の点に関しても、本件更正決定、本件裁決書の各理由をみれば処分の具体的根拠を明らかにしているから、修正通知書はその処分の基礎となつていたものでないこと(効力の発生していないことを前提としていること)も充分に推察し得られないものとは解せられない。してみると、本件審査裁決の理由の附記としては違法あるものということはできない。

四、以上の通りであるから原告の本訴請求は、本件更正決定賦課決定の点につき、その違法のある限度で正当としてこれを取消し、その余は失当として棄却し、本件審査裁決の点については違法はないから、失当としてこれを棄却することとする。訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)

別表(一) 前五年以内(自昭和三二、一二、一至〃三七、一一、三〇)の繰越欠損金額の明細<省略>

別表(二) 昭和三四年度(自昭和三三、一二、一至〃三四、一一、三〇)の所得金額計算の明細<省略>

別表(三) 昭和三七年度(自昭和三六、一二、一至〃三七、一一、三〇)本件事業年度所得金額計算の明細<省略>

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